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ただボンが教えてくれた、大切なこと。

ただボンが教えてくれた、大切なこと。

「駿介は難しいことを理解したり覚えることがニガテです。楽譜も読めません。なので、駿介の演奏は「上手だから聴いてください」ではありません。楽譜も読めないのに一生懸命に練習しています。その諦めない心を音に乗せてみなさんにお届けしたい。その気持ちを受けとめてください。」多田駿介さんの母、多田千景さんは彼の演奏前にこんなことを言った。その後、駿介さんが弾く「勇気100%」のメロディーは特別なものに聞こえた。

人は誰もができないこと、苦手なことがあり、たくさんの人に助けてもらって生きている。それを当たり前と感じ感謝の心を持たなかったり、上手くいかないことを人や周りの環境のせいにして、八つ当たりする人が多いのではないか。

多田駿介さんはたくさんの人に助けてもらっていることを感じ、いつも感謝を忘れず、他者からの「ありがとう」の声を素直に喜ぶことができる人だ。ダウン症という障がいを持ち、苦労することも多いはず。しかし、人として持つべき感謝の心を持つ多田駿介さんに学べることはたくさんあるのではないだろうか。

仕事と向き合う

町内の介護施設で働く駿介さん。自分が必要とされていることが嬉しく、ここで働きたいと感じた。持ち前の明るく優しい性格を発揮し、介護をする上でイラっとすることは基本なく、たくさんの利用者に寄り添って話をする。今では「多田くんに会いたい」という利用者さんがたくさんいる。

仕事中、色々と失敗をすることがあるそうだが、それを駿介さんは家ではこう語る。「怒られてるんじゃない。指導してくださってるねん。」彼は少しずつ経験を積み、出来る仕事が増えている。そしてたくさんの「ありがとう」の言葉をもらっている。「ありがとう」と言われることの嬉しさを感じ、家族や他の人にも自分から「ありがとう」と言うようになった。駿介さんは毎朝笑顔で行ってきますと出ていくそうだ。「元気に出かけて行く様子を見送ることに幸せを感じる」と千景さん。

祖母の存在

祖母は、仕事で忙しかった両親に代わってたくさんの時間を共に過ごしてきた。保育園の送り迎えをし、学校の宿題を一緒にし、自転車の練習も二人で頑張った。駿介さんを一番近くで支えてきた。駿介さんを急かすことなく、ゆったりと育ててきてくれたことに感謝している、とご両親。千景さん曰く、私はすぐ、「早くしなさい、ちゃんとしなさい」と言ってしまいますが、ばあちゃんは「それができたら、駿介ちゃうやろ!駿介には駿介のペースがあるんやから待ってあげなさい。ゆっくりやればできるんやから。」と叱られると言う。

駿介さんは現在、マリンバ奏者として幅広く活動しているが、そのきっかけを作ってきたのも祖母の発言だった。「木琴なら叩いたら音がでるやん」と。又、自動車の免許を取りたいと言ったときも、周囲は反対していたが、祖母の「ダメかもしれんけど、行きたい言ってるんやから行かしてやればいいやん」と味方した。そのとき駿介さんは「ばあちゃんがお年寄りになって運転できないようになったら、ボクが病院や買い物に連れて行ってあげるからね」と優しい言葉を返す。18歳で運転免許証を取得し、現在はゴールド免許を持っている。

 

お茶の間ぴっころ

そんな祖母は、猪名川町松尾台で飲食店「お茶の間ぴっころ」を営んでいる。駿介さんは休みの日にはそのお店を手伝う。「駿ちゃん今日いる?」を聞くお客さんが増え、おばあちゃんと駿介の店だと誇らしげだ。今「お茶の間ぴっころ」は同じような障がいを持つ人をお仕事体験として受け入れることもある。障がいを持つ方が活動できる場所の一端を担っている。

おはようさん

駿介さんは、松尾台小学校区内の通学路に立ち、小学生を見守りながら「おはよう」の挨拶をする小学校の見守り隊としてボランティア活動をしている。多田さん親子はこれを「おはようさん」と呼んでおり、朝7時40分に家を出る。

始めた背景には障がいを持つ駿介さんを地域の人に知ってもらいたいという思いがあった。駿介さんが小学校6年生のとき、地域に住む大人の障がいを持つ方が、かまってほしさから小学生にちょっかいをかけてしまうことがあった。地域の人から障がいを持つことを知られていなければ、怖い人として写ってしまうことが危惧された。駿介さんは高校卒業してすぐに見守り隊として朝の登校時間に立ち「おはようのお兄さん」の活動を始め現在も続けている。

そうした中で、駿介さんを見守る地元の高齢者の方や、さらにその高齢者の方を見守るボランティアの方々も集まり、見守りの連鎖ができていった。そんな駿介さんの姿を見て、千景さんに障がいを持つ子どもの母親が「うちの子もしてもらうばかりではない。何かができる人になれるんや」と言葉をかけた。今まで先輩方の背中を見て育ててきたけれど、駿介さんの背中を見ている人がいることに千景さんは気付いた。

環境に恵まれて

「いつも心配だった」と振り返る千景さん。しかし、保育園や小学校でもイジメられることはなく、周りの人たちに恵まれてきたと家族で感謝している。肩身が狭いというような苦労も感じてこなかったそうだ。印象的な発言がある。「環境が整っていれば障がいを感じない。周りの環境がいいから、駿介は卑屈になることはなく、先生と友達に恵まれた」。できない事もあるけれど、できることは友達が認めてくれる。高校の同級生は「多田っていつも一生懸命やから応援したくなる」と話す。

まとめ

駿介さんと駿介さんの家族にはもちろん楽しいことばかりではなく、先の不安はたくさんあるかもしれない。しかし多田さん一家は皆さん明るくポジティブで人に優しい。周りの環境に恵まれたと感謝の気持ちを何度も言うご一家には、自然とたくさんの助けてくれる人たちが集まってきている。言い換えれば多田さんご家族だから、駿介さんだから優しい人達が集まるのだと思う。駿介さんは論するように語ることはないが、生き方で大切な事を教えてくれているような気がする。取材して改めてそう感じた。

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PR企画事務所というデザイン事務所やってます。情報誌いながわベースの編集長デス(*^-^)ニコ

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