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猪名川甲英×いながわベース

猪名川甲英高等専修学校インタビュー

いながわベースが2020年情報誌春号を発行するにあたり、阿古谷地域をスポットに当ててみました。

まち協ファイル 阿古谷まち協編
三矢の儀式 困難を乗り越えて3年ぶりに復活

取材を進めるにあたり、猪名川甲英高等専修学校が存在が重要なキーポイントになっていることがわかりました。

まち協ファイル 阿古谷まち協編 の文中にも『阿古谷小学校区まちづくり協議会を語る上では猪名川甲英高等学院を抜きにしては語れない。』とあるが決して大袈裟ではありません。町内の7つのまちづくり協議会で唯一小学校がない阿古谷地域を支え、溶け込み、共に盛り上げていく『猪名川甲英高等専修学校』を詳しく知るために特別取材をお願いしました。

2020年4月号の地域情報誌「いながわベース」では阿古谷地域が特集されました。記事の中でも猪名川甲英高等学院の阿古谷地域での存在意義が改めて注目されたと思いますが、まず普通高校との違いを教えてください。

本校は「高等専修学校」という学校種になります。高等専修学校とは、平たく言えば専門学校と同じ学校種です。本校はその専門科目が農業、そして通ってくるのは高校生と同じ年代。卒業すると、通信制高校と連携しているので高卒資格も取得できます。高校との大きな違いは「カリキュラムが柔軟に組めること」これによって、農業や地域活動を通じた学びが高卒資格取得に必要な単位として認められます。

2016年に開校し、初年度入学した子が春卒業しましたが、この3年の教育課程についてどのようにお感じになっていますか?

本校へ入学する生徒の中には、中学校時代に不登校経験があったりと課題を抱えた生徒が 少なくありません。 そうした生徒たちにとって、自信を取り戻し前向きに人生を歩むことができるようになるために、自然/農業/地域性がとてもマッチしていると感じています。

履修学年ごとに、学育指導の特色はありますか?

一年生は、主にメンタルのケアに重点を置いて取り組んでいます。「自然っていいな、地域ってい いな、友達っていいな」少しでもそう思ってもらえる一年にする。自分で育てた野菜を自分で食べたり、家族に食べてもらったりして喜んでもらえることで成功体験を得る。また、農業の授業は、同じ時間と同じ場所で行われるにも関わらず、皆がそれぞれ自分の得意を活かして別々の作業に取り組める。そうすることで、みんながお互いに「イイね!」 を押せるのも農業の素晴らしいところです。

二年生は農業を通して「働くこと」について学びます。地域の農家さんに協力してもらってインターンシップに取り組んだり、道の駅やJAと協力して販売体験を行なうことで、様々な大人 と触れ合う機会を作っています。 一年生の段階で、前向きに人生を歩むことができるようになったのなら、今度はぜひ「夢中になれるもの」に出会ってほしい。自分の内側から湧き出てくる「やりたい」という気持ちや「夢中になれること」そのものがステキなことで、そこに自分の強みや才能のカケラが隠れていたりする。様々な体験学習からそうしたきっかけを掴んでもらいたいと思っています。

三年生になると、進路について各々が目指すべき道を歩み出します。また、猪名川甲英は普通高校と比べると小さな学校なので学年間の隔たりもなく、3年生は下の学年のサポートを行なったりしています。

学校が心掛ける授業時間以外の活動に特色はありますか?

~クラブ活動~
・・・地域活動部・・・

「地域課題を解決するということで、自分自身の成長にもつなげる」というのが主旨です。まずは地域にどんな課題があるかということの調査を行うためにフィールド調査を行ないます。フィールド調査には色々あって、例えば自治会の自治会館等に行ってお食事会をやって、その食事会で地域における困りごとの聞き取り調査を行う。ちなみに、そこで食べてもらうのは地域の人々で構成されている「阿古谷みらい協議会お弁当事業部」の方々が作ってくれた、自分たちで作ったものや地域で採れた野菜で作ったお弁当。その他には、地域の夏祭りでアンケート聞き取り調査を行いました。そうした取り組みの中で「60年前に、阿古谷には獅子舞があった」という情報を掴んだ生徒がいました。
彼が「その獅子舞を復活させたい」という思いを、猪名川町主催「高校生フォーラム」で発表して町長賞をいただき、さらにその次の年の秋祭りでは、彼とその仲間たちの手によって60年ぶりに獅子舞が舞ったのです。

その他、台風によって社へ神木が倒れ、倒壊した民田八幡で江戸時代から続く「三矢の儀 式」が2年間中止になるということがありました。彼らはその復興のため日生中央で募金活動を行ったり、「三矢の儀式」が復活する際には「儀式における子役」「看板の制作」に取り組みました。

猪名川町 三矢の儀式 令和二年、困難を乗り越えて3年ぶりに復活

特に地域防災についての研究が、最近マスメディアで取り上げられていますね。

3年前の大雨で、阿古谷の象徴となる三草山が崩れる大雨が降り、猪名川甲英も避難場所と して開設されました。そうした事実を知って、地域で防災に関する困りごとが無いかの聞き取り調査を行ったところ「避難生活は退屈」という声を聞き、避難所でレクリエーショ ンができるような備品の設置や、防災についての講演を地域の小学生たちへ行う提案を、 昨年の高校生フォーラムで行なったところ、またしても町長賞をいただき現在は実現に向けて動いているところです。

他にも授業時間以外の活動について教えてください。

・・・クッキング部・・・ 地域の方に手伝ってもらって、自分たちで作った農作物を使って、お菓子づくりなどをす るクラブです。 作ったものは、基本は自分たちで食べます(笑)。その他、学校の内部で販売する、地域の イベントである「猪名川まつり、桜まつり、日生中央の広場での催事」にて販売をしたりします。値段が安いということもありますが、販売するといつもすぐに売れてしまう人気 商品です。部員数は5-6人

・・・スポーツ部・・・ 高等学校の運動部というイメージではなくて、どちらかというとみんなで体を動かして楽しむというのが主旨です。競技は日によってバラバラ、バドミントン/卓球/ドッジボール を楽しみます。「本気で部活に取り組みたい」という人には物足りないかも知れません が、体を動かすことで「楽しむ、リフレッシュする」というのも立派な生きるチカラだと 思います。

・・・農業部・・・ 授業でも既に農業はやっていますが「もっとやりたい、違うことにも取り組んでみたい」 という声に応えるためのクラブです。中でもユニークなのがニホンミツバチの養蜂。巣から蜂がいなくなったり、なかなか難しいのが現状なのですが、取れたハチミツを加工して お菓子にしたり、販売したりしています。

Youtubeにもアップされている、歌いやすい校歌について教えてください。

校歌のタイトルである「Saiの花」のSaiというのは、本校の理念「3つのSai」から来てい ます。
3つのSaiは、再びの「再」才能の「才」彩の「彩」という字を書きます。 それぞれに意味や想いがあって、そうしたもの載せたのがこの校歌。 校歌っぽい校歌にしたくなくて、テーマは「ギター一本あれば、みんなで気軽に歌える」 でした。

そんなことを、当時の事務局長の知り合いであるシンガーソングライターの松瀬一昭さん にお願いしたところ、めちゃくちゃ良い歌が出来上がって、松瀬さんの持ち曲の中でも人気になってしまうほど。 松瀬さんの現在は、春夏秋冬というグループでメジャーデビューしています。 あと、生徒たちと一緒に歌ってるところがYoutubeに上がっていて、今年はカラオケにも登録される予定です。

まずは音楽の授業で練習して、式典はもちろん、宿泊合宿のキャンプファイヤーで歌ったり、夏祭りのステージで歌ったりしたりしています。

歌に込められた想いとしてもう一つあるのが、この地域は阿古谷小学校が閉校になってしまって、沈んだ空気が流れていました。本校の生徒たちも同じく、入学してくるまでで辛い思いをしてきた生徒も少なくありません。そんなことから、生徒も地域も、みんなが元気になれる「日本一ココロが元気になる校歌」にしたかったんです。

文科省ともタイアップした事業の「猪名川グローカルPJ」にとても興味があるのですが、HPを見ると4分科会を立ち上げて活動されていますね。 どのような内容なのでしょうか?

文科省から、事業委託を受けて取り組んでいるプロジェクトです。 文科省は「学校は、学校だけでなく、地域や行政、企業と連携して教育に取り組んでほし い」と思っていて、見本になるような先行事例を作ってほしいとの依頼が高等専修学校の 連合会を通じてあり、受託に至りました。取り組みとしては、現在は3つの分科会に分かれています。

・・・地域連携・・・ 主に地域に関わること。取り組みとしては、『夏祭り』『住民運動会』『防災』を取り組んでいます。一昨年の大雨で地域の土嚢の備蓄がなくなったので、土嚢づくりを手伝うと同時に、防災についての知識を猪名川町消防署にきていただいて学ぶ機会を設けました。

・・・農業・・・ 地域の篤農家さんに協力してもらって、農業体験や、インターンシップ事業を行ないました。 本校の生徒は、農業を学んではいますが、それは家庭菜園の延長線上のようなものです。これをプロの現場に出て行って、商品として売り物になるものを作っている現場を見てもらうというのがこの分科会の主旨。インターンは、希望者だけの少数精鋭です。昨年はあえて「夏の一番暑い時期の、一番きつい時期」を体験してもらいました。理由は「農業をやりたい」というニーズが一定ある のは嬉しいものの、途中で農業の厳しさへ直面し「やっぱりしんどいから辞める」となっては逆にかわいそうなので、今の段階で一番しんどいことを体験してもらうことにしました。ところが、それでも参加した生徒にとってはとても充実していたようで、むしろ農業への想いがさらに高まったという生徒もいました。

・・・自立支援・・・ 本校には、様々な課題を抱えた生徒たちも少なくありません。そうした課題を解決することもたいせつですが、ニガテや不足があっても卒業後に幸せな人生を送れるための「生きるチカラ」を身につけるためには、どうしたら良いか、の議論を行なっています。 ここの構成メンバーは、発達障害に対するオーダーメイドの支援を行なっている株式会社や、不登校支援を行なっているNPO法人、心理カウンセラー、作業療法士によって構成されています。 今取り組んでいることで、ユニークなのが、IT企業と連携して、毎日の睡眠時間/食べたもの/今の気分などを、生徒全員が記録して、問題が起こっていないかを事前に察知するようなシステムを導入しています。「あまり寝れていない日が続いている」「ご飯をたべれていない」ということが可視化されて、メンタル的に不安定な状態が察知できたりするのでとても役立っています。

本校には、勉強やスポーツがニガテ、そうしたものを他と比べられたり、友達とうまくやれなかったことで自信を失ってしまった生徒たちもいます。彼らにとって大切なのは、そうしたものを無理矢理にできるようにすることではなく、そうしたニガテ/不足があっても幸せに生きていける方法やチカラを身につけることだと思っています。だって、ニガテや不足の無い人なんてそもそもいないんですもん。笑

・・・今後の構想は・・・ 在校生や卒業生が「出荷を前提とした農業」に取り組むための実習農地「甲英ファーム(仮称)」を新しく作りたいです。

この取り組みによって、農業を志す生徒が「実際に収益を上げるためにはどのようにすれば良いか」を学ぶと共に、そこで技術と知識に磨きをかけること、出荷元として出荷先から信頼を得ることを実現し、将来的には地域での就農ができればいいなと思っています。 また、近隣の農家への手伝いを行うことによって、高齢化した農村の活性化にも取り組んで行きたいです。阿古谷や猪名川町内で、卒業生が就農し地域へ貢献し、みんなが幸せに なれる「わ」を造ることが僕の想いであり目標ですね。

一年間PJを実践されて、生徒たちや指導者の達成感は感じられますか?

すごくあったと思う。初年度に獅子舞の復活を提案した生徒は、中学校にはほぼ行っていない不登校の生徒でした。在学中もとにかく頼もしい存在でしたが、彼は地域に対して貢献する喜びをここで学び、地域創生に取り組むことのできる大学へ進学しました。他にも、中学校はあまり学校へ通えていなかったけど、猪名川甲英で農業を学ぶことによって「もっと極めたい」と思うようになり、必死で勉強して農業大学へ進学することになったという生徒や、中学校はなかなか学校に馴染めなかったけど、猪名川町内の企業に就職した生徒もいます。

僕は、彼ら彼女らが、都市部での学校生活が「合わなかっただけ」と思っています。「合う合わない」は「良い悪い」とイコールではありません。だから「合う」場所に行けば 「良さ」を発揮し、自分も周りも幸せになれる。僕自身も、そんなできた高校生ではありませんでした。自分に自信がなかったし、人生が面白いとも思えていなかったです。 僕の場合は、音楽に出会えたことで変われた。ここで「居場所があって、その気持ちさえあれば、人は誰でも輝ける」のだと思ったのです。そこから音楽でプロを目指していたのですけど、それはあんまり上手くいかなくて。笑 そうこうしてると、父親がやっていた学校へ軽音楽部の顧問として入ることになったのです。それが、猪名川甲英の姉妹校となる西宮甲英で「自分に自信がない生徒を多く受け入れている学校」だったのです。 西宮甲英では、軽音楽部の顧問として音楽を通じて生きる喜びを伝えることを目標に教育活動に取り組んでいました。そこで、本当に見違えるように輝いていく生徒たちをたくさん見て来ました。だから猪名川甲英でも、僕にとっての音楽のように、生きづらさを感じ ている若者にとって農業や自然や地域が、輝きを取り戻すきっかけになる。農業や地域活動に取り組むことが、生徒たちの学びや生きる歓びにつながり、それが地域の活性につながれば、お互い幸せになれるし、ちょっとは社会も豊かになるんじゃないかって思っています。

本日は大変長い時間を頂いてインタビューさせて頂きました。 今後とも学校の更なる社会的チャレンジを応援し、ご発展をお祈りします。 ありがとうございました。

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PR企画事務所というデザイン事務所やってます。情報誌いながわベースの編集長デス(*^-^)ニコ

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